「慣性モーメント」、またはMOIという言葉は、ゴルフのスイングや用具の特性について説明する際によく用いられますが、具体的には何を意味するのでしょうか。
簡単に言うと、これは物体がどのくらい回転しやすいか、あるいは回転しにくいかを示す指標になります。その数値が小さいほど、物体は軽々と回転し、逆に数値が大きいと物体の回転は難しくなります。
「イナーシャ」という言葉は、物体の動きの変化に対する反発力(動き始める力や停止する力)を表す言葉です。しかし一方で、物体を回転させるための力や物体間の力の影響を「力のモーメント」(moment of force)と呼びます。結果として、「慣性モーメント」(moment of inertia)は、回転運動の変化に対する抵抗力と解釈されます。
質量中心と回転性質の相関
物体の質量が集中している箇所、つまり重心(Center of Gravity)は、引力などが作用する地点に存在します。その位置は物体の安定性や回転に必要なエネルギーを決定します。慣性モーメントとは、物体が回転する際の重さと、回転中心から重心までの距離の二乗によりその大きさが決定されます。慣性モーメントが大きくなると、物体を回転させるために必要なエネルギーも増加し、その結果、回転が難しくなります。逆に、慣性モーメントが小さければ、一定の力で簡単に回転させることが可能です。つまり、一般的には、ヘッドが大きく重心がシャフトから遠いクラブヘッドの慣性モーメントは大きいと言えます。
クラブの慣性モーメント
ゴルフクラブの仕様には時々、クラブヘッドの慣性モーメントの数値が示されています。これは、クラブがシャフトを中心に回転する際の難易度を表すもので、高いほどそのクラブの回転が困難になります。たとえばドライバーの場合、操作感が少し低下しますが、ボールの軌道が安定するという利点があります。
ただし、フェース角や重心角が適合していないと、意図しない打球やフック打ちにつながる可能性もあるため、注意が必要です。 また、慣性モーメントの高いパターは一般的で、これをうまく活用したクラブが多く見られます。だからといって、そのパターが高品質であるとは必ずしも言えません。
同様に、クラブフェースの向きとは無関係な慣性モーメントも存在します。例えば、シャフトが長いドライバーのMOI(慣性モーメント)は、クラブを振る感覚から想像することができますし、クラブのスイングウェイトがMOIにどの程度影響を与えるかも予想できるでしょう。 軽くてMOIが小さいクラブは、スイングスピードを上げるという点で利点がありますが、クラブが過度に軽いまたは短い場合には、操作が難しくなる可能性があります。そして、グリップを短く握る選択は、単にシャフトの長さを短くするだけでなく、MOIが二乗に影響することから、飛距離をコントロールするのに効果的であると言えます。
回転軸上に重心をキープ
体の回転を考えると、重心をできるだけ回転軸に近づけて、慣性モーメントを小さく保つことでスムーズに安定した回転が可能になります。スイング中に体が大きく左右に振れると、重心が回転軸から遠ざかり、慣性モーメントが増大します。これにより、体の滑らかな回転が困難になります。 また、腕を横に振ると、腕は回転軸から離れた位置で動き、体の回転の慣性モーメントが増え、同じように回転が困難になります。したがって、腕の動きを体から独立させて、左腕が左肩の根元を中心に上下に回転するように工夫すると良いでしょう。このとき、腕と体の回転軸が一定の位置関係(体の回転の慣性モーメントを考慮した場合)を保つように努めると、より良い結果が得られる可能性があると考えられます。
慣性モーメントに逆らわない
慣性モーメントという基本的な概念について触れてきましたが、ゴルフが難しい理由の一つとして、様々な慣性モーメントがスイングやストロークと深く関わっている点が挙げられます。理想的なスイングでは、腕が落ちる動作とともにクラブが遅れ、そしてそのクラブヘッドが手首から絶妙なタイミングでリリースされ、加速します。しかし、この完璧なタイミングは、体の回転やバランス、腕の振り方、手首の動きといった数々の慣性モーメントが複雑に絡み合い、調和を保ちつつ生じるものです。 一方で、打つ直前に意識的に腕を動かし、手首からショットを打つと、遠心力によるクラブのリリースとは異なる、手首をリリースする大きな慣性モーメントが必要となります。結果として、それは不安定な打球を生む可能性があると考えられます。そのため、ボールを打つ瞬間を一点に特化するのではなく、クラブヘッドの軌跡(線)上にボールが存在しているという視野をもつスイングの方法が推奨されています。